HOME > MAXILLA 1

上顎再建について
石田医師元村医師が語ります。

上顎再建を語る

元村「上顎は顔面のほぼ中心に位置します。下顎と違って形態も複雑で関係する機能も多い上に、欠損の種類も多いですから、一概に語るのは難しいですね。とくに整容(見た目)に大きく関わっていますからね。」 石田「そうなんです。上顎をすべてとる場合は視る、食べる、話す、鼻で息をする、そして元村先生がおっしゃるように見た目に関わり、一番目立ちますよね。この中でも私はやはり整容にこだわっています。マスクとメガネでも隠し切れないところです。それに整容をよくすれば、他の多くの機能の問題は解決されることが多いですからね。」 元村「上顎再建は、整容と機能の両立が必須で、先生のおっしゃるとおり、整容が良いと言うことは機能も良く、また逆に機能が良ければ整容も良くなると考えています。まさに“機能美”と言えるのでしょう。私はその整容の中でも、特に目にこだわりを持っています。眼は顔のほぼ中心にありますし、上顎切除で眼球が一緒にとられてしまった場合でも、必ず義眼が入るようにしています。なぜなら、目には二つの力があるからです。一つは視力ですね。もう一つは分かりますか?」 石田「なんですか?」 元村「魅力ですよ。学生の再建外科の授業でもいつも言っていることです。今の医療では作れないものがたくさんあります。目の再建においての整容と機能について考えると、視力という機能は再建できませんが、魅力の部分は再建ができると考えています。目は見えなくとも、“眼は口ほどにものを言う”臓器であり、魅力ある目が再建できたなら、それは視力を超えた機能となるのです。そのためには、義眼がよい位置に入って、まぶたも動くことが理想です。それをわれわれ再建外科医は作ることができるのです。」 石田「なるほど。その魅力というのは、上顎の整容的再建すべてに通じますね。」 元村「魅力ある顔を作るのは時間がかかる場合もあります。でも上顎がんは、周りに重要な臓器が多いのでがんの治療、つまり予後という点で問題がありますね。」 石田「そうです。それで上顎がんに対しては、抗がん剤、放射線などさまざまな方法があり、治療の組み合わせで予後の改善が見込まれてきています。だからこそ、きちんと再建しなければいけないと考えています。」 元村「なるほど。私も同感ですが、予後が良い方だけではなく、悪い方であってもきれいな顔でその一生を終えていただきたい。それは我々再建外科医の使命だと思います。終末期医療と再建、すなわち棺桶に入るときも顔に醜形を残さないこと、これも私の目標です。ところで、実際に先生はどんな再建をしているのですか?」


石田「足の骨、腓骨皮弁による即時再建、つまり切除と同時に再建を行っています。上顎切除後は多くの場合、再建をしなくても最低限の日常生活を送ることができます。よって、がんの切除が落ち着いて再発がないことを確認した上で再建する二期再建が行われることもあります。しかしこの場合、残った組織、特に鼻や唇、頬などがひきつれてしまいます。こうなると、私も多くの患者さんに手術をしましたが、理想的なよい顔を作るのは難しいと思いました。また二期再建までの間に顔が変形したまま生活すると精神的苦痛が大きくなってふさぎ込む患者さんもいらっしゃったので、なるべくこのような思いを減らしてあげたいと思いました。せっかく癌治療をしたのですから、治療後は早く社会に復帰して、楽しい生活を送ってもらいたいのです。」

元村「確かに、ひきつれを戻しても、組織は固くなってしまいますからね。私は眼球が切除されてしまった方に義眼を入れるための手術を得意としていますが、これに関しては二期的に作るのがよいと思っています。この義眼床のように、二期的な修正を考えた上での即時再建を行う方法もありだと思います。問題は最終的にどこまでもっていけるかを患者さんに伝える事だと思います。」


石田「義眼の場合はそうですね。しかし、その他の部分は別で、このひきつれで、頬、鼻、下まぶた、唇などが変形します。また鼻についてはあまり議論される機会がない印象ですが、顔の中心にあり、一度ひきつれを起こすと直すのはとても難しく、また顔の中で眼の次にとても重要だと思っています。」

元村「頬の近辺の形は、表情筋の影響もあるので難しいですね。即時再建をしてもひきつれは少なからず起きますし、移植した組織の下垂などの問題もあります。逆にこのひきつれを利用して、よい位置に骨を固定する事も大切だと思います。ところで再建材料として、他の骨や軟骨もあると思うのですが、腓骨を使うのはなぜですか?」

石田「手術の前か後に放射線治療をする患者さんが多いので、生きている骨、つまり血流のある骨でないといろいろな不利益が生じる可能性が高いです。血流のある骨には他にも肩の骨、腰の骨、手の骨などがあると思いますが、骨量が足りないことや、一緒に持ってくるほかの組織の量、皮膚の厚さや、形の作りやすさといった点で、私は腓骨がよいと思っています。しかし肩や肋骨や腸骨など様々な施設が様々な再建材料を使用していますので、絶対的に腓骨が良いというわけではありません。これに関しては私だけでなく世界的にも結論は出ていません。」


元村「私も先生と同じ考えです。以前は肋軟骨とお腹の肉を使っていましたが、最近は肩の骨、肩甲骨と肋骨を使っています。これには骨と脂肪の自由度が高いという利点があると思います。」

石田「それもよいと思います。私の現時点の方針は、即時再建でどれだけできるかです。最初にお話ししたように、上顎再建の目的は整容です。整容に関してわれわれ形成外科医はプロですから、皮膚切開アプローチにもこだわっています。しかしこれは腫瘍の局在によっても違いがありますのでまだこれがベストという皮膚切開はありません。」

元村「最後に歯について話しましょう。上の前歯は整容的にもとても大切だと思います。しかし、口蓋を皮膚で作ると義歯が入りにくい印象があるのですが、いかがですか?」

石田「腓骨と皮膚で口蓋を作った場合、歯が残っている患者さんの場合は入れ歯が入ります。なくても可能な患者さんはいらっしゃいます。しかし噛む力を考えると歯がない方の場合はインプラントが必要だと思います。」

元村「逆に口蓋を再建せずに口から鼻に大きな穴をあけておき、その穴をふさぐような大きな入れ歯、つまり義顎をいれるという方法が昔から行われていますが、どう思いますか?」

石田「口腔と鼻腔に穴を開けておく方法については、年月とともに義顎があわなくなり水などのもれが見られてくるという問題があります。また術後に放射線治療や化学療法などを行ったり、単純に時間がたったりしただけでも義顎が合わなくなって、もう一度作り直さなければならないことが多いと思います。つまり、私の経験では閉じた方がよいと思っています。しかし口腔と鼻腔に穴をあけて義顎をいれる方法と再建して閉じる方法では機能的には明らかな差はないとの報告もありますので、義顎が決して悪いわけではないとは思います。利益、不利益をよく話し合って患者さんそれぞれの生活スタイルで選択する事がよいかと思います。」

元村「私も同意見です。入れ歯は大切ですが、よりよくするために使いたい。当然患者さんの状態や希望を考えて方法を選択しますが、患者さんは手術が終わってその状況になってみないと分からないことが多いと思います。われわれ再建外科医としては、最高の方法が提供できるようにした上で患者さんに選択してもらうのが一番ですね。」

石田「そうですね。すべての患者さんが満足できる最高の方法をこれからも考えていきましょう。」

元村「本日はありがとうございました。」