HOME > SET 5th

2014年 7月 5日(土) 15:00-18:00
NTT東関東病院 4F カンファレンス室
参加無料
共催 コヴィディエンジャパン株式会社

Special Guest
川口智義 (癌研有明 整形外科)

Faculties
太田 嘉英 (東海大学 口腔外科)
山城 正司 (NTT関東 口腔外科)
寺尾 保信 (駒込病院 形成外科)
大倉 正也 (大阪大学 第一口外)
去川 俊二 (自治医大 形成外科)

5th SETならびに5th After SETへの参加希望は下記メールまで。
set-office@jikei.ac.jp

5th SETに参加された皆様へ。

 先日は天候不順にもかかわらず沢山の先生方にご参加いただきありがとうございました。
 このたびはSETとして初めて切除に焦点を当てました。題して“膜でとる”。
 口腔がんの切除に関して、“10mmのマージンを確保して切除した”などという記載をよく見かけます。しかし、深部マージンの厚みをどのように測定しているのでしょう。指先の感覚でテキトーに行っているのが現実だと思います。以前は整形外科領域の骨軟部肉腫の手術も同様であったそうです。生体はさまざまな“膜”でできています。そして“膜”は腫瘍浸潤に対してbarrierとして働きます。前半はこのbarrier理論に基づいた手術を確立された癌研整形外科顧問の川口智義先生に“膜”に関する基本的な考え方をレクチャーしていただきました。後半は頬粘膜癌切除において頬筋(表情筋)をbarrierとしてとらえる手術について提示させていただきました。口腔がん切除のアプローチは従来の、距離で考えるmetric approachだけでなく、barrierの考え方を組み込む余地があることは皆で共有できたのではないかと思います。
 “精密な臨床記録、病理の切り出しをすべて自分の手で行うことによってこの理論に到達した。”“radicalならば100%の治療成績が得られるはず、90%だから遠慮してcurativeと名付けた。”stageも病理組織像も超越し、自らに極めて高い治療成績を課し新理論を構築された川口先生のお言葉、外科医魂が心に残りました。
 さて次回 6th SETは10月25日(土)、SETとして始めての大阪の陣です。コテコテの熱い厚い(curative5㎝相当)thinkingをしましょう。

東海大学 口腔外科
5th SET Faculty
太田 嘉英


5th SET 報告

参加者 62名

 5th SETのテーマは「膜でとる」、つまりがん手術における切除縁の取り方についてでした。がんをとる時には、がん細胞が見た目以上に拡がっている可能性を考えて、ある程度正常と思われる部分を含めて切除しますが、具体的にどこで切れば再発しないか、はっきりとした決まりがありません。一般には、がんがあると思われるところから1cmなどの具体的な距離を決めて切る(metric approach)ことが多いのですが、脂肪や筋肉、骨の間など組織構造によってがん細胞が広がりにくいところ (barrier approach)でとれば、再発も少ないし、無駄にとることも少ないのではないかという考えがあります。

 5th SETの前半は、骨軟部腫瘍を扱っているがん研有明病院整形外科の川口先生に講演してもらいました。川口先生はこのバリアーでがんをとるということを1500例以上の症例に対して30年以上続けています。がんを扱う場合には、病気分類やがんの大きさなどで分類して生存率を考えるのが一般的ですが、これらは患者さんが病院を受診した時に決まっており、治療者がどうにかできるものではありません。川口先生はそれらをひとまずおいて、自分が外科医として実際にやったこと、つまり、がんからどれくらいの距離をとって切除したか、その時にバリアーをどれくらい含めたかなどで分類して生存率を評価しました。そのためには、実際にやった手術の記録はもちろん、実際にとった標本を詳細に分析して、しかも患者さんがどうなったかを長期に渡って観察しなければいけません。すると、生存率を90%以上(川口先生が手術を始めた40年くらい前は、骨南部肉腫の生存率が50%くらいだったそうです)にするためにはどうすればよいか、という治療の目標も設定することができます。その結果、ある肉腫の場合は1cmより広くとり、バリアーがある場合はもう少し小さくてもよい、などという治療法を示すことができました。これは、治療者として大切にすべき考え方です。また、バリアーは筋肉や骨の周りの膜ではなく、がん細胞が通りにくい、つまり血管などが少なく物理的にもよく滑る層であることが分かりました。SETで扱う口腔周囲の筋肉の場合、物理的バリアーと考えられている筋膜は存在しないので、同じようなバリアー理論はあてはまらないのではないかと漠然と思っていたわれわれにとっては、意外な事実でした。

 後半は、口腔癌のひとつである頬粘膜癌について、東海大学口腔外科の太田先生が実践しているバリアー理論に基づいた具体的な切除法を説明してもらい議論しました。頬粘膜のすぐ裏側にある頬筋をバリアーとして捉え、いつ誰がやっても同じ結果になるような術式(口腔癌の場合、これが意外と難しいのです)を考案し、他の論文の報告に比べて局所再発率を低く抑えることができました。残念ながらこの方法はまだ多くの施設では実践されていません。標準治療になるかどうか、つまり再発率だけでなく、技術的な問題や術後機能の問題など幅広い因子を多くの外科医が議論、検証する必要があります。この場でも多くの問題が議論されました。

 SETは参加者がよい治療のために何かを「考える」会です。毎回のことですが「答え」は出ません。しかし、治療者が「考える」を続けないと、治療も変わらず、答えにも近づきません。口腔癌の患者さんがいつでもどこでも同じレベルの高い治療が受けられるように、今回のようなテーマで刺激を受け、「考える」を続けます。

 5th After SETは、健康づくりのタニタ食堂で行いました。「医者の不養生」とは言いますが、実際の医療には体力が必要です。そこで「わたしの健康法?」というテーマで、4人の先生がプレゼンをしました。お酒あり、写真あり、トレイルマラソンあり、みなさんの内容が健康的なのか不健康的なのか別にして、少なくとも多くの医療者が健康を気にしているのがよく分かりました。


5th SET!

 今回は切除の話です。口腔内癌を「どれぐらい切除する?」って実は術者によって異なるのではないでしょうか。舌の深部は筋肉の塊、頬粘膜は筋肉の向こうに皮膚があります。体の中で他に類を見ない特殊な構造の上皮にできる癌をどう扱うのか?マージンで考えるのか、構造で考えるのか、リンパ流で考えるのか、切除の根拠はいろいろあります。そして切除範囲の違いは再建や機能にも影響します。今回は「膜」という構造から切除を考えてみます。皆さまの「切除の流儀」を熱く論じ合いましょう。
 スペシャルゲストとして癌研究会有明病院、前整形外科部長の川口智義先生をお招き致します。「膜」や「バリア」で切除縁を考える上で、悪性軟部腫瘍の第一人者である川口先生のご講演は私たちSETに大きな指標を示して頂けると思います。


がん・感染症センター都立駒込病院
形成再建外科
SET代表
寺尾保信